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NEWS過料請求に関する意見陳述書を送付しました
プレスリリース
質問権の回答に対する過料請求に関して、本日裁判所に以下のように意見陳述書を送付いたしました。
意見陳述書 PDF版
令和5年(ホ)第30087号 宗教法人法違反事件
当事者 田中富廣
意見陳述書(1)
令和5年10月6日
東京地方裁判所民事第8部非訟係 御中
当事者田中富廣代理人
弁護士 福本 修也
同 弁護士 鐘築 優
同 弁護士 堀川 敦
本件に関する当事者田中富廣の意見陳述は下記の通りである。
なお,本意見陳述書は令和5年9月7日に過料通知がされたことを受けて予め準備していたものを元にしたものであり,本件過料事件通知書に対応する意見を期限内に追加して提出する予定である。
記
第1 過料処分を課すことに対する意見
1 当事者田中富廣を過料に処さない。
2 裁判手続費用は国の負担とする。
との決定を求める。
第2 意見陳述
1 意見の要旨
(1) 報告徴収・質問の違法
本件では,宗教法人法(以下,単に「法」という。)第88条第10号の答弁拒否の前提となる法第78条の2第1項に基づく本件報告徴収・質問の行使(以下,「本件質問権等行使」という。)自体が違法であり,これに対して答弁を拒否したとしても,正当である。
(2) 答弁拒否の実質的正当性
実質的に見ても,世界平和統一家庭連合(以下,「家庭連合」という。)が行った答弁拒否は,法第78条の2第6項違反,信者等のプライバシー保護,信教の自由などの理由により行ったものであり,正当である。
2 報告徴収・質問の違法(1(1))について
(1) 法第78条の2第1項の法律要件欠缺
本件質問権等行使が法第78条の2第1項の要件を欠き違法であることについては,当代理人福本修也(以下,単に「当代理人」といいます。)作成に係る令和4年11月24日付及び同年12月2日付各法律意見書(乙1,乙2)並びに令和5年5月11日付通知書(乙3)において述べる通りであるので,詳細はこれらを引用することとし,ここでは要旨を述べる(法律意見書等未記載の論旨も加筆)。
ア 不法行為は法令違反行為に該当せず
(ア) 東京高等裁判所決定平成7年12月19日判例タイムズ894号43頁「オウム真理教に対する宗教法人解散命令抗告事件」(以下,「東京高裁決定」という)が,法第81条第1項第1号[解散事由]の要件について
「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」(一号)・・(中略)・・とは,宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって,社会通念に照らして,当該宗教法人の行為であるといえるうえ,刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するものであって,しかもそれが著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(である)
とする法解釈を国が一夜にして変更し(令和4年10月18日内閣総理大臣答弁を翌19日に変更。乙9「衆議院予算委員会議事録」,乙10「参議院予算委員会議事録」),民法の不法行為を同号の法令違反行為[刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの]に含むとしたことは重大な誤りである。
最高裁判所判決(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)が,
我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁昭和63年(オ)第1749号平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照),加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない。もっとも,加害者に対して損害賠償義務を課することによって,結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても,それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的,副次的な効果にすぎず,加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。我が国においては,加害者に対して制裁を科し,将来の同様の行為を抑止することは,刑事上又は行政上の制裁にゆだねられているのである。
と判示する通り,不法行為制度は加害行為に関する損害補填制度であって,民法第709条はこれを定めた「賠償規範」であり,加害行為の一般予防や加害者に対する制裁・抑止を目的とする禁止規範又は命令規範ではない。
不法行為は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害(する行為)」(同条)と定義されるが,個々具体的な行為が不法行為に該当する否かは,同条の外にある法秩序が設定した実定法規である禁止規範・命令規範(刑事法規又は行政取締法規)又は「公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)」に照らして評価・判断される(乙1:添付資料3「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34~35頁)。その結果,当該行為が不法行為と評価・判断されれば,同条の「賠償規範」に基づき損害賠償債務発生という私法上の法律効果が生じるのである(以下,これを『不法行為における階層的規範構造』と言う。)。
このように民法第709条は,同条の外にある法秩序が設定した実定法規である禁止規範・命令規範とは区別される「賠償規範」であって,同条自体は禁止規範・命令規範ではない。したがって,東京高裁決定にいう「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範」に同条は入らず,そもそもにおいて「民法第709条違反」なる概念は存在しない(同条が外部規範と重ねて二重に違反評価をする理由はない)。
(イ) 法第81条第1項第1号に「法令に違反」とある以上,如何なる「法令」に違反したのかを特定することが最初の一歩となる。同号の「法令」が法律・命令等の実定法規を指すことに議論の余地はないが,「違反」の概念が成り立つ法令の規定は自ずと限られてくる。まず,私法の任意規定に違反の概念はない。また,組織規定・手続規定違反なども広い意味での法令違反には違いないが,かかる違反行為が「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」ような事態を引き起こすとは考えられない。したがって,同号にいう「法令」は同号の趣旨に照らして絞られなければならない。そこで,東京高裁決定はこれを「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」として「法令」の範囲を絞り込んだのである(乙1:3~6頁)。
上記解釈は,同決定の上級審である最高裁決定平成8年1月30日(民集第50巻1号199頁,以下,「最高裁決定」という。)が(宗教法人)法81条に規定する宗教法人の解散命令の制度も,法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為(同条1項1号)や宗教団体の目的を著しく逸脱した行為(同項2号前段)があった場合,あるいは,宗教法人ないし宗教団体としての実体を欠くに至ったような場合(同項2号後段,3号から5号まで)には,宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切あるいは不必要となるところから,司法手続によって宗教法人を強制的に解散し,その法人格を失わしめることが可能となるようにしたものであり,会社の解散命令(商法58条)と同趣旨のものであると解される。
と判示し,支持されたものと認められる。すなわち,旧商法第58条第1項第3号(現行会社法第824条第1項第3号)の会社解散事由は,「会社ノ業務ヲ執行スル社員又ハ取締役ガ法務大臣ヨリ書面ニ依ル警告ヲ受ケタルニ拘ラズ法令若ハ定款ニ定ムル会社ノ権限ヲ踰越シ若ハ濫用スル行為又ハ刑罰法令ニ違反スル行為ヲ継続又ハ反覆シタルトキ」と規定していたところ,同号にいう「法令若ハ定款ニ定ムル会社ノ権限ヲ踰越シ若ハ濫用スル行為」は法第81条第1項第2号前段,「刑罰法令ニ違反スル行為」は同項第1号に各相当する行為である。宗教法人法及び会社法が各規定する解散事由が同趣旨であるとすれば,法第81条第1項第1号の法令違反行為は刑罰法令に違反する行為に限られ,刑罰法令違反を伴わない不法行為が入らないと解釈するのが相当である。信教の自由に対する特段の配慮が求められる宗教法人の解散事由の適用範囲を会社法よりも広く解釈することなど許されるものではない。
不法行為には法令違反を伴うもの(刑事法規・行政取締法規違反)とこれを伴わないもの(「公序と呼ばれる不文の秩序=社会的相当性」の逸脱)とがあり,前者が法第81条第1項第1号の法令違反に該当することは当然である(ただし,これは不法行為の故に該当するものではない)。しかし,家庭連合の信者らが民事訴訟で問われたのは後者であり,そこで信者らが違反したとされるのは民法第709条の外に存在する「公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)」である。これは実定法規である法令に違反したものではない。したがって,法令違反を伴わない不法行為は法第81条第1項第1号が定める法令違反行為には当たらない。
よって,家庭連合に代表役員等の幹部役職員による刑事事件が存在しないにもかかわらず,上記誤った解釈を前提に家庭連合が関わった不法行為事件(法令違反を伴わないもの)を根拠になされた本件質問権等行使は法第78条の2第1項の要件(解散事由がある疑いと認められること)を欠き違法である。
イ 法人行為要件を充たす事案は皆無
東京高裁決定は,法第81条第1項第1号の適用対象となる「宗教法人の行為」は宗教法人の代表役員等が法人の名の下において取得・集積した財産及びこれを基礎に築いた人的・物的組織等を利用してした行為であって,社会通念に照らして,当該宗教法人の行為であるといえるものでなければならないとする「法人の行為要件判断基準」を定立した。これも上級審である最高裁決定で実質的に支持されている。すなわち,同決定で法第81条第1項第1号・2号と同趣旨の規定された旧商法第58条第1項第3号は,行為者を「会社ノ業務ヲ執行スル社員又ハ取締役」に限定しており,これを宗教法人に置き換えると,行為者は「代表役員等」(代表役員などの幹部役職員)に限定されるからである(「法人行為論」から導かれる理論的背景については乙2参照)。
本件で対象事実とされる家庭連合に関する損害賠償請求訴訟事案には,家庭連合の代表役員等の幹部役職員が関わった事案はなく,いずれも同基準に適合しないことが明かである。
したがって,家庭連合には宗教法人の行為と看做されるような事案がなく,およそ同号該当の疑いがないにもかかわらず,国が質問権等を行使したことは法第78条の2第1項の要件を欠き違法である。
(2) 国による法解釈変更に対する批判
ア 安倍元首相銃撃事件以降における国の見解の変遷
国は,東京高裁決定が出されて以降,同決定にいう「刑法等の実定法規の定める禁止規範又は命令規範に違反するもの」には,民法の不法行為は入らないという解釈を永年踏襲してきた。家庭連合においては,法人代表役員ら役職員による刑事事件が存在せず,法第81条第1項第1号の法令違反行為に不法行為(法令違反を伴わないもの)が入らない以上,家庭連合に解散事由がないことは明らかであって,同号の解散事由が存在する疑いを行使要件とする法第78条の2第1項の報告徴収・質問を行うことはできないはずである。
安倍元首相銃撃事件後に家庭連合に対する批判が高まってもなお暫くの間,国の上記見解(「刑事事件に限られ,民法の不法行為は入らない」)に変更はなく,同見解を繰り返し表明・確認してきたものである(乙4~乙8)。令和4年9月12日及び同月20日に行われた野党ヒアリングにおいて,文化庁職員は,「旧統一教会の役職員が刑罰を受けた事案を承知しておらず,(解散命令)請求の要件を満たしていないと考えている」(乙4),「教会の幹部らが刑事罰を受けていない中で,裁判所が解散命令を出すのは難しいと考えている」(乙5)と述べているが,これが,東京高裁決定及び最高裁決定による刑事限定解釈に依拠し,かつ,旧商法第58条第1項第3号の行為者が「会社ノ業務ヲ執行スル社員又ハ取締役」に限定されていることを宗教法人に当てはめて,行為者を教団の「役職員」又は「幹部ら」と限定解釈したものであることは明かである(上記(1)イ参照)。
家庭連合叩きのマスコミと世論に押された岸田首相は,令和4年10月17日,突如,永岡文部科学大臣に対し,家庭連合に対する質問権等を行使するよう指示を出した(情報によれば,この指示は首相が側近を含め誰にも相談せずに独断で決めたもののようである。仮にしかるべき見識のある者に相談していたならば,下記のような混乱は生じなかったはずである。)。ところが,首相は,翌18日に開かれた衆議院予算委員会において,「法令違反には民法の不法行為は入らない」旨従前通りの答弁をしたため,前日に出した質問権等行使の指示との関係で重大な矛盾を露呈し,野党から厳しい批判の声が上がった(乙9「衆議院予算委員会議事録」)。
首相は,法第78条の2第1項が定める質問権等の行使要件と法第81条第1項第1号の解散事由との関係を知らず,思い付きにより質問権等行使の指示を出したため,質問権等行使指示と論理的に矛盾する答弁をそうと知らずに行ったものと推察される。同答弁案を起案した文科省がこの矛盾に気付いていたかどうかは定かではないが,仮に気付いていなかったとすれば,実にお粗末である。もっとも,仮に文科省が矛盾に気付いていたとしても,判例により確立された従前の解釈を否定して変更するという重大な内容を同省独断で決めることなどできなかったものと推察され,一分の同情の余地はある。
首相は,質問権等行使の指示と上記答弁の矛盾及びそれが意味する深刻さに気付いたが,当時,旧統一教会問題が原因で内閣支持率が急落していたことから,「今更,質問権等行使の指示を撤回すると政権が持たない」との危機感を覚えたものと推測される。そこで,首相は,同日夜,官邸に関係省庁を呼び集め,「従前の法解釈を変更して法第81条第1項第1号の法令違反に民法の不法行為を入れ込む解釈を捻り出す」よう強く迫った(乙11)。その結果,一夜明けた同月19日,首相は,参議院予算委員会で,「組織性,悪質性,継続性などが明らかであり,宗教法人法の要件に該当する場合,民法の不法行為も入り得る」という強引な法解釈の変更(以下,「本件法解釈変更」という。)を行ったのである(乙10「参議院予算委員会議事録」)。
行政府には法解釈権限はないが,行政解釈とはいえ正に「朝令暮改」を地で行く恣意的な法解釈変更により現実に行政権限を発動することは,法の予見性を害すること甚だしく,法の支配・法治主義に反する。
イ 本件法解釈変更は法解釈論の体をなしていない
本件法解釈変更については,不法行為制度につき詳しく説示した前掲最高裁判例の壁が厚く,同判例と整合する理論的な説明を行うことは凡そ不可能である。
もっとも,文科省を含め世の中には「法令に民法が含まれるのは当然であり,民法の不法行為も法令違反行為である」という説を唱える論者がおり,彼らが不法行為が禁止規範・命令規範であるとする根拠として引用するのが「不法行為とは,私的生活関係において他人の権利を侵害する行為であって,法秩序がその権利を保護するために,行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう」(潮見佳男「不法行為Ⅰ(第2版)」2,4頁)という記述である。しかしながら,同記述(下線部)からも明らかな通り,ここで言う禁止・命令規範は民法第709条の外にある規範を指しており,正に上記2(1)ア(ア)で述べた『不法行為における階層的規範構造』をそのまま表現しているものに外ならない。上記論者の説は,『不法行為における階層的規範構造』を理解していない者による実に浅薄な主張である。これは,民法第709条の規範とその外に存在する規範の区別が付かず,両規範を混同することで漠然と不法行為を論じることから来る誤りであり,端的に言えば,これら論者の頭の中が論理的に整理されていないことを表している。「過料事件通知書」45~48頁(ウ~オ)などは,文科省が『不法行為における階層的規範構造』を全く理解していないことを示す好例である。ここで同省が自説を裏付けるものとして引用列挙する判例・文献の各記述は,全て『不法行為における階層的規範構造』から見て至極当然のことを述べているものである。
ところで,「組織性,悪質性,継続性などが明らかであり,宗教法人法の要件に該当する場合,民法の不法行為も入り得る」とする変更後の新解釈は,一見,尤もらしく聞こえ,いかにも素人受けするフレーズである。そのため,マスコミでは,この「組織性,悪質性,継続性」の3要件をあたかも所与のものであるかのようにして報道で繰り返し引用してきた。しかし,厳密さが求められる条文解釈の視点から見れば,上記は「空疎な言葉のまやかし」に過ぎない。そもそも,「組織性」は法第81条第1項第1号の宗教法人の行為に該当するか否かの判断要素(東京高裁決定「法人の行為要件判断基準」)であるのに対し,「悪質性・継続性」は同号の「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」か否かの判断要素であって,これら性格を異にする判断要素を混同して不法行為が「法令違反行為」に該当するか否かの判断要素とするなど,その論理の破綻は明らかである。同号が規定する法令違反行為に不法行為が該当するか否かは条文解釈によって一義的に定められるべきものであって,諸条件により不法行為がこれに該当したりしなかったりするという関係にはない。ただし,ここでいう「不法行為」とは実定法規である法令に違反する行為を伴わない不法行為,すなわち「公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)」に違反する不法行為類型のみを指して論ずるものであることに注意しなければならない(前掲「注釈民法(19)債権(10)不法行為」34~35頁)。実定法規である法令に違反する行為を伴う不法行為(刑事法規,行政取締法規に違反する行為)は,当該法令違反の故に法第81条第1項第1号に該当するのであって,それが同時に不法行為に当たるかどうかとは関係がない。これは,『不法行為における階層的規範構造』を理解していれば,容易に分かるはずである。政府新解釈の「民法の不法行為も入り得る」に言う不法行為が,家庭連合の信者らが関わったとされる「公序と呼ばれる不文の秩序(=社会的相当性)」に違反する不法行為類型を念頭にしていることは言うまでもない。そして,万一,「不法行為」が法令違反行為に該当するとした場合,当該行為の「悪質性・継続性」は「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」か否かという別の要件の判断要素となるのであって,これらは行為の法令違反行為該当性とは無関係である。このように,本件法解釈変更の内容は杜撰極まりなく,法解釈論の体をなしていない。
上記は,令和4年10月18日夜に官邸に集められた官僚らが首相から強く迫られて苦し紛れに行った法解釈の変更であった(乙11)が故に理論的な詰めが全くされていなかったことの証左といえる。
ちなみに,「過料事件通知書」を読む限り,文科省は「組織性,悪質性,継続性などが明らかであり,宗教法人法の要件に該当する場合,民法の不法行為も入り得る」とする政府新解釈に関する理論的説明を放棄したことが見て取れる。
(3) 総括
以上,報告徴収・質問の行使要件である法第81条第1項第1号の解散事由の疑いがあると言えるためには,最低限,宗教法人の代表役員又は責任役員クラスの幹部役職員が法人の業務に関連して刑事事件を起こしたという事実がなければならない。確かに,報告徴収・質問の段階では,当該刑事事件に該る行為が宗教法人の行為と言えるか否か,あるいは「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」疑いがあるかどうかについては,ある程度幅を持たせた裁量的判断が許容されるものと思料される。むしろ,報告徴収・質問の主たる目的は上記各要件の該当性を見極めるための判断材料を得ることにあると言って良い。しかし,その前提となる幹部役職員が起こした刑事事件の存在は必要不可欠であり,これがない限り報告徴収・質問を行うことは許されない。
したがって,本件質問権等行使は違法であって,家庭連合がこれに対する答弁を拒否したことは適法である。
3 答弁拒否の実質的正当性(1(2))について
(1) 答弁拒否の内容
家庭連合としては,違法な質問権等行使に対して全部答弁拒否することも検討したが,沸騰するマスコミ報道及び世論などの諸情勢に鑑み,全部答弁拒否という選択を回避し,国が主張する「不法行為の組織性,悪質性,継続性」に関連すると思料されるものを中心にできる限り回答することとした(乙13「第1回報告徴収・質問回答前文」)。これは家庭連合の実際について説明し,誤解を解いて行く上でも有効との判断であった。
上記方針においてもなお,資料等の提出又は回答しなかったものは下記の通りであり,実質的にも正当な理由がある(乙13「報告書」)。
① 国が主張する「不法行為の組織性,悪質性,継続性」と関係がない報告徴収・質問に対しては開示・回答する理由がなく,開示・回答をしなかった。特に問題とされているのは,献金勧誘,伝道勧誘行為,それに関連した組織運営上の問題(教会役職者の関与)であるので,それらに関連した報告徴収・質問に対しては開示・回答した。
② 信者,職員の個人情報に関わる報告徴収・質問に対しては,プライバシー保護のために開示・回答しなかった。
③ 重複した報告徴収・質問で,回答済みの場合には開示・回答しなかった。一見重複していないようでも,既に実質的に回答した質問についても回答しなかった。
④ 報告徴収を求められた資料が存在しない場合には(内部規定上は作成等が予定されても,実際には作成された事実がない,或いは過去にあったけれども時間が経過したので既に廃棄した等を理由とする場合など理由は様々)提出しようにもできなかった。
⑤ 報告徴収を求められた資料の準備・作成に甚だしく時間と労力を要するものは準備・作成せず,提出しなかった。
⑥ 裁判等で現に係争中の案件に関した質問には回答しなかった(文部科学省は裁判の相手方である全国霊感商法対策弁護士連絡会と緊密に連携しているため)。
⑦ 全国弁連から既に入手済みであることが明らかな文書については提出しなかった。
⑧ 外為法,税法,労働法等その他の法令に基づく業務(海外送金,公益法人会計業務,労務管理等)については,各関係省庁(財務省,税務署,厚生労働省等)の監督下でなされ,適正に行われている。文科省からは,これらに関する資料提出要求があったが,問題とされている不法行為とは全く関連性がなく,宗教法人行政と無関係な法領域における何らかの犯罪を探知しようとする意図が見え透いていたことから,法第78の2第6項(「第一項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」)に反すると認め,提出を拒否した。上記2(3)でも指摘したが,報告徴収・質問の主な目的は既に判明している宗教法人の幹部役職員が起こした刑事事件が法人の行為要件に該るか否か,「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」か否かの判断材料を得ることにあり,既に判明している事件以外の犯罪事実などを新たに探知・捜査することを目的としてはならない。
(2) 報告徴収・質問の実態
文科省は,強引な法解釈変更によって違法に質問権等行使の門を開いただけでは飽き足らず,法第78の2第6項に違反し,未だ確認されていない犯罪の探知・捜査を行うため,思いつく限りの教団文書・データの報告徴収を不法行為と無関係に求めて来た。そして,そこには信教の自由に基づく教団の機密や信者・職員のプライバシーに関わるものなどありとあらゆるものが含まれていた(特に第1回質問権等行使)。これらは質問権等行使として許容される範囲を逸脱した不当・不適切なものであるから,家庭連合として報告・回答を拒否することは至極当然の権利である。
文科省が,宗教法人法の趣旨を無視し,「報告徴収・質問をする以上,教団を丸裸にし,何を要求しても構わない」という考えを有していたことが「国の報告徴収・質問に対して拒否するとは怪しからん」との判断に繋がり,本件過料通知に至ったことは明らかである。正に「官による思い上がり」である(この思い上がりの背景については,後記5項及び6項参照)。
4 宗教法人審議会の実態
文科省は,宗教法人審議会の了承を得て質問権等を行使してきたから適法であるなどとしきりに主張してきたが(第7回目の質問回答締切り前日である令和5年8月21日も,文科省担当者は当代理人に対して電話で同様の主張を繰り返していた),家庭連合が問題にしているのは形式的手続ではなく,法律上の実体的行使要件の欠缺であり,上記主張は全く筋違いの反論である。
もっとも,漏れ伝わるところによれば,7回に亘る質問権等行使を諮った宗教法人審議会及び過料通知を諮った同審議会においては,出席した委員からかなりの異論が出されたにもかかわらず,議事を仕切る文化庁次長合田哲雄がそれらの異論を押さえ込んで了承を取り付けたようである。特に,過料について審議した令和5年9月6日の審議会では,当代理人作成の法律意見書(乙1,乙2)について議論がされたにもかかわらず,文科省担当者は,審議会終了後の記者レクで,共同通信社の記者から「審議会では,教団側が出している法律意見書に対する検討がされたのか。そこでは,どういう議論になったのか。」との質問を受けたのに対し,「その件については回答を控える」として逃げた。国においては,当代理人が展開する法律上の主張を克服できない限り過料通知などできるはずがないにもかかわらず,肝心要の議論自体を隠蔽するとは如何なる料簡か。これでは第三者機関である審議会に諮った意味がない。また,これまで宗教法人審議会会長によるコメントが全く出て来なかったことから見ても,審議会の実情が外部に漏れ出ることを極度に警戒する文科省の姿勢が見て取れる。
なお,文科省は,本来,宗教法人審議会に諮る必要のない過料通知の可否につき諮ったが,これは審議会という第三者機関の意見も聴いたという形式を整えることで自らの行為の違法性を糊塗し,過料裁判で敗れた場合の責任逃れをするための布石であると推察される。同省は,近々,法人解散命令請求の可否を同審議会に諮ることを予定しているようであるが,これも同様の意図によるものと推察される。責任を転嫁される審議会委員らにとっては良い迷惑である。
5 文科省の差別的で不公正な姿勢
文科省は,過去,いずれも教団内における「集団リンチ殺人事件」を起こした法友之会,紀元会,空海密教大金龍院及び神慈秀明会に対しては,法人解散請求はおろか,質問権等の行使すらも行わなかったにもかかわらず(乙15の2「中山申入書2」4~5頁,乙15の3「中山申入書3」5頁),教団幹部等による刑事事件が存在しない家庭連合に対しては,執拗に質問権等を行使した上,過料の制裁まで求めて来たものである。かかる文科省の不公正にして差別的な扱いは,突如の法解釈変更という「後出し」による「狙い撃ち」であり,明かに「行政の則」を逸脱している。
文科省は,岸田首相から質問権等行使の指示が出された令和4年10月17日以降,それまでの消極・慎重な姿勢(乙4~乙8)を豹変させ,最高権力者の意向に媚び,家庭連合批判のマスコミ報道に誘導された世論に迎合し,家庭連合に敵対する全国霊感商法対策弁護士連絡会及び脱会した元信者らの声高な主張にばかり耳を傾け,最初から解散命令請求ありきの偏った立場から,違法な質問権等行使を繰り返してきたものである。その姿勢は一事が万事であり,文化庁宗務課長(当時)石﨑宏明は,反対派や元信者等が家庭連合の解散命令請求を求める内容の署名を彼らから直接受け取り,その場にマスコミまで立ち会わせた上,「裁判所でひっくり返されないように証拠を固める」とリップサービスまで行ったのに対し,逆に解散命令請求をしないよう嘆願する家庭連合信者らの署名については,信者側が直接交付を強く要望したにもかかわらず,頑なに直接受け取ることを拒否した(乙17の6「抹殺された現役二世信者たち」54~57頁)。また,フジテレビにおいて,家庭連合が文科省に対して主張している内容(信者に対する拉致監禁棄教強要事件が民事訴訟原告創造の温床となってきたこと,乙18「報告書」)を取材して報道したところ,文化庁次長合田哲雄は,当該報道内容が事実であったにもかかわらず,「旧統一教会の主張を垂れ流す報道姿勢に問題がある」などとして文化庁への出入禁止処分の制裁を加える言論弾圧まで行った(乙17の7「解散請求と文科省の言論封殺」306~310頁)。さらに,NHKが,第三者弁護士中山達樹作成に係る文科省宛申入書の内容(家庭連合には組織性,悪質性,継続性が認められないとするレポート,乙15の1~4)を報道し,家庭連合が教団ホームページに同報道事実を掲載したところ,文化庁からNHKに同様の圧力が加えられたという事実も確認されている(乙17の7:310~312頁)。ただし,内容的にはNHK報道の方がフジテレビ報道よりも遙かに踏み込んだ内容であったにもかかわらず,奇妙なことにNHKは出入禁止処分まではされなかった。ここには文科省による別な意味の差別が見て取れる。
以上,文科省は,違法な質問権等行使に当たり,行政の中立・公正に著しく反する差別と自らに不都合な言論に対する強権的弾圧を平然と行ってきたのである。
6 本件背景事情
国による本件質問権等行使は,昨夏の安倍元首相殺害事件後に俄に沸騰した「魔女狩り」とも言える異常な家庭連合叩きのマスコミ報道に踊らされた世論に迎合し,露骨な法の歪曲をした上で行われたものであって,悪しきポピュリズムの所産ともいうべき「戦後最悪の宗教迫害事件」である。
信教の自由及び政治参加の自由の歴史が浅く,人権感覚に乏しい日本では,悲しいかな,巷に溢れ返る一方的な家庭連合叩きの報道やこれに乗せられた世論に疑問を覚えない国民が圧倒的に多いのが実情である。しかしながら,海外の目にはこの日本の現状は実に異常に映っているのである。国際的人権サイト『Bitter Winter』の一連の記事(乙16の1~8)は,イタリアの宗教社会学者・弁護士であるマッシモ・イントロヴィニエ氏が連載した記事であるが,昨夏以降の日本の社会状況に対する客観的で鋭い洞察がなされていることが分かる。また,偏向した魔女狩り報道及びこれに迎合する国や自由民主党による家庭連合に対する差別的対応については,事実を冷静に見つめる国内の有識者からも批判が出ているところである(乙17の1~7)。
そして,令和5年9月26日,オバマ政権時の元国際宗教自由大使スーザン・ジョンソン・クック氏及び米政府諮問機関「米国国際宗教自由委員会(USCIR)」の元委員長カトリーナ・ラントス・スウェット氏は,米政治情報サイト『リアル・クリア・ポリティクス』に『アジアの民主主義国は信教の自由で失敗する危険がある』と題する記事を投稿し,「(民主主義国・人権擁護の象徴であった)日本が信教の自由を踏みにじる考えを示している」,「日本政府は現在,政治的と思われる理由で合法的に構成された宗教団体を解散させようと脅している」,「有罪判決を受けたことのない宗教団体を解散させれば,民主主義の原則を掲げる日本という国のイメージを汚すことになる。民主主義国がメディアによる中傷キャンペーンの地ならしの後に,不人気な宗教的少数派を粛清するような全体主義国家体制の道を決して辿ってはならない。」として,日本政府による家庭連合に対する宗教迫害を痛烈に批判している(乙19の1,2,乙20)。
本件は世界が注視する裁判であり,その裁判結果は日本国の国際的評価・信頼にも重大な影響を及ぼすものである。裁判所におかれては,本件質問権等行使が上記異常な熱狂を背景として行われたものであるという事実を冷静に見定め,ポピュリズムに流されることなく,法の正義に適う判断を下し,もって,日本国の法の支配と法治主義を守る砦となられんことを願う。
第3 想定される国の予備的主張に対する反論
岸田首相は,令和4年10月19日の参議院予算委員会における答弁において,「報告徴収・質問権の行使を行うに当たっての政府としての根拠とか理由につきましては,昨日来説明させていただいておりますが,おっしゃるように,二件の,組織的な民法の不法行為に関する事例があるということと併せて,千七百の政府の合同相談窓口に寄せられた相談の中で,警察あるいは法テラスにつなげた,こういった事案も含まれていることから,こうしたことも併せて考えますときに,政府としては手続を進めたいということを説明させていただきました。」(乙10:5頁第2段目)と述べ,合同相談窓口に寄せられた相談中に警察につなげた事案の存在も質問権等行使の根拠・理由に挙げていることから,国が「仮に法第81条第1項第1号の法令違反行為に不法行為が入らないとしても,刑事相談案件があった事実を根拠にする本件質問権等行使は適法である」との予備的主張をいずれ行うことも想定される。
しかしながら,文科省自身が質問権等行使のための基準を定めた「宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収・質問権の行使について」(乙12:3頁)においては,
(1)「疑い」を判断する根拠
「疑い」とは様々な水準のものが想定されるが,風評等によらず,客観的な資料,根拠に基づいて判断することが相当である。
したがって,風評や一方当事者の言い分のみで判断するのではなく
・ 公的機関において当該法人に属する者による法令違反や当該法人の法的責任を認める判断があること
・ 公的機関に対し,当該法人に属する者による法令違反に関する情報が寄せられており,それらに具体的な資料か根拠があると認められるものが含まれていること
・ それらと同様に疑いを認めるだけの客観的な資料,根拠があること
のいずれかに該当する場合に「疑い」を判断することが妥当である。
としており,単に警察への相談案件があったというだけで疑いの根拠・理由にはなり得ない。実際,刑事事件に関する報告徴収・質問は皆無であったことが,上記警察相談案件なるものの実態がどの程度のものであったかを裏付けている。
以上