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「繰り返し」の影響をうまく利用する

幸福度がアップする家族のコミュニケーション講座
阿部美樹

 前回、目標、夢を明確化することの大切さをお伝えしました。そして、それを具体的に実現させていくうえで、必要な要素があります。それは「繰り返す」ことです。

 人は繰り返しの言葉に強く影響を受けます。ノーベル賞を受賞した神経生物学者のジェラルド・エデルマン博士によれば、記憶は脳の一部に貯蔵されているのではなく、思い出す瞬間に毎回、再構築されているといいます。さらに、記憶の経路は、繰り返されることによって太くなり、自分で口に出して言ったり、何人もの相手から承認されたりすると、フィードバックされて経路が補強されます。その結果、記憶の再構築が簡単にできるようになるのです。
 例えば、「不況だ、不況だ」といつも言っている人と一緒にいると、今は不況なんだという記憶経路が太くなります。すると、ちょっとした情報でも、不況という記憶経路を通ることになり、そのたびごとに、不況だという現実が再構築されます。結果、何でもかんでも不況のせいにするようになるのです。このように、繰り返される言葉、自分が発する言葉、他人が同調する言葉で現実が構築されていきます。
 
 この、繰り返しの影響をうまく利用することもできます。例えば、自分に都合のよい言葉を繰り返すのです。その言葉は人生をその言葉どおりに導いてくれます。前回、目標を実現するために、その内容を紙に書くことが重要とお伝えしました。加えて、繰り返すことが大切です。例えば、目標を毎日、手帳に10回書き出したり、繰り返し読んだり、繰り返し眺めたりしてみてください。目標が深く心に刻まれ、実現する可能性が高まり、実現までの期間も短縮されていきます。
 また、目標を設定するときは、「私は~をする、~になる、~できる」と現在形の表現がよいようです。「~したい」という言葉は、したいけどできない現実をイメージさせるので、あまりよくありません。現在形の表現こそ、肯定的な表現になります。繰り返しの言葉と共に、それが実現した場面を思い浮かべる「視覚化」があればさらに効果的です。肯定的な表現で、幸せの実現を想像するのでワクワクするような心を導き出すことができます。
 
 超一流といわれる人を見るとやはり「繰り返しの達人」である、といえます。曹洞宗の開祖「道元禅師」は、座禅を通して悟りを得たといいます。それをひと言で言うと「只管打坐(しかんたざ)」となります。すなわち、ひたすら打ち座ることが、それでもう悟りの姿なのだ、と説かれたのです。
 真言宗の空海は、「虚空蔵求聞持法(こくうぞうぐもんじほう)」という、超記憶力開眼法ともいえる内容を説きました。空海は、これによって見事に超人的な能力を得たといわれています。
 求聞持とは記憶のことです。密教の真言を1日1万遍、100日間唱え続けるというものです。真言を、心を静め、大きく息を吸い込んで一息で何度も暗誦(あんしょう)します。そして、また息を吸い込み一息で……。と、これを繰り返すのです。これは呼吸法であり、脳波もリラックス状態になっていくといいます。
 
 また、スポーツの世界でも同じです。野球の基本は素振りの繰り返しです。野球の素振りは重要だと分かっていてもおもしろいものではありません。しかし、無償の行為のような素振りを繰り返したことで、イチロー選手は大成しました。松井秀喜選手は、小学校3年生の時、父親が半紙に「努力できるのが才能である」と毛筆で書いて渡してくれたそうです。これを眺めながら、努力する繰り返しの中で大成しました。
 繰り返しができることは、何よりも貴い能力です。単純なようですが、基本を徹底的に繰り返すことができた人が「超一流」になっています。まずは身近なことから、繰り返しを実践してみましょう。

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