コラム
colum会話を深めるための質問の使い方
前回、前々回に続いて、もう一つ「質問」についての話をしてみましょう。
今、日本で一番メジャーな心理療法がカール・ロジャースの「来談者中心療法」です。クライアントの訴えにひたすら耳を傾け、その人を全面的に受け入れるという「受容」「共感」「自己一致」をベースにしたものです。
ロジャースの療法の本質は人間尊重の精神であり、徹底的に人を信じるところからスタートしています。人間には本来、洗剤回復能力が備わっているので、それを内側から引き出す治療をすればよいと考えました。人間の中核は「建設的で成長を目指す存在」であり、それは「水と太陽があればすくすく育つ」とするようなものでした。生きる意欲を引き出すことこそが、治療では何よりもだいじだと考えました。
今までも可能性を引き出し、解決を見出いだすためには、会話の中で「質問」を用いることを説明しました。また、心理学で強調している「傾聴」をさらに深めるためには、「質問」の併用が大切になります。人生の中で、課題・問題があった場合、解決の道を見いだす一番良い方法が「優れた質問を考えること」と言うことができます。
では、コミュニケーションを深めるために、どのような質問をしたらよいでしょうか。効果的な質問の技法として次のようなものを活用することも有効です。
5W1Hを深める質問
What(なに、どんな):「何だと思う?」
Why(なぜ、どうして):「どうしてだと思う?」
Who(誰):「誰に話したらいいと思う?」
When(いつ):「いつまでにできると思う?」
Where(どこで):「どこに行ったらいいと思う?
How(どうやって、どうすれば):「どうやったらいいと思う?」
このような質問を受けることを通して、さらに深く考察できるようになるでしょう。思い込みの強い人や深く考察しない人には有効です。しかし、矢継ぎ早に質問をしたら、追い込まれるような状況となり、冷静な判断や柔軟な思考はできません。あくまでも、相手の状況を把握しながら、適度な質問をタイミング良く投げかけることが大切です。
すぐあきらめやすい人、習慣的に行動する人、変化ができない人、考え方を変えられない人には、5W1Hの質問を通して変化を起こしましょう。さまざまな角度からの質問は、新たな「気づき」へと導いていくものです。
質問したとしても、自分自身の状況を言葉で的確に表現できない時もあります。感情は目に見えないものであり、人それぞれ違う感性を持っているので、簡単に表現できません。そのような時、有効なのが幸福度、満足度を数字で表現する「尺度質問」です。
最高の満足状態を「10」とした場合、今の満足度を数字で表すといくつですか?という質問です。言葉で表現しにくい感情を数字で表すことによって感情表現させる方法です。
また、現状の課題や問題を気にしすぎて、飛躍、転換できない人には「奇跡質問」が有効です。これは、奇跡が起きたと仮定して解決策を模索する方法です。例えば、夫婦仲で悩んでいる女性に「明日の朝起きたら奇跡が起こっているとします。何が変わっていれば奇跡が起きたと思いますか?」と質問します。すると、「夫が優しくなることかな……」と答えるでしょう。抽象的な考えの人には具体的変化を考えさせてみるのです。奇跡が起きたら、何が実際に変わるかを想像させることが心の変化のきっかけになります。
人間関係が苦手な人は、自分の立場でしか物事を考えられない特徴があります。自分の考えや感じ方と違うことに葛藤し、相手の気持ちを推し量る余裕がありません。そのような時は、立場を変えて考えさせる「立場質問」が有効です。第三者の話をして、「あなたがその方と同じ立場だったら、どのように思うでしょうか?」と想像させます。このような質問の繰り返しから、相手の立場に立つことができるようになり、第三者の立場から客観的に見つめることができるようになったりします。立場を変えて考えさせることで、多面的な視点や考察ができるように導く質問です。
今回もいくつかの手法を紹介しました。これらを参考に、ぜひ身近な人に質問を投げかけるとともに、自分自身にも同じ質問をしてみるとよいかもしれません。