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相手を自己実現に導くコーチング

幸福度がアップする家族のコミュニケーション講座
阿部美樹

 人を指導することは、相手を成長させること、できる人に導くこと、言葉を換えれば「自己実現」できるように援助することです。「自己実現」とは、その人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮することです。この自己実現できるように援助することを「コーチング」と言います。

 スポーツの世界では、監督とコーチという立場があります。監督は全体に責任を持ちながら指示命令し、コーチは選手を援助、指導する立場だと思いますが、今は、監督型よりもコーチ型の指導が注目されています。
 
 指導をするとは、「援助する」ことですが、援助の方法としては二つあります。HELP(ヘルプ)とSupport(サポート)です。この二つの言葉は、ともに援助ですが、深い意味では大きな違いがあります。
 ヘルプは、できない人のために代わってやってあげることです。例えば、幼い子供を親が世話をしたり、保護することです。一方、サポートは、相手をできる人ととらえて、そばで見守り、より良くなるために、必要な時には手を貸すことです。
 子育てでも、子供が成長し、自立していくならば、幼いころとは違って主体性を持って何でも自分で責任をもって取り組もうとします。その時、親は子供を見守りながら、必要な時だけ手を貸すサポートの姿勢が大切です。
 
 大人に対して援助する時も、ヘルプとサポートの二つがあります。ヘルプは一見、すべてをやってあげることなので、とても親切な行為に見えます。ところがそれは、時には相手に対して「できない人」「自分ではどうすることもできない無力な存在」として見る、否定的な人間観があります。できない人に対し、やってあげる、答えを教えてあげる、やり方を教えてあげる、ようになります。そうなると、上下関係になりやすく、コミュニケーションも支持・命令型が基本となります。やってもらう人は当然、指示待ちの姿勢や依存型となり、主体性や責任感、自発性は育ちにくくなります。
 
 この観点から、指導には二つの形態ができます。「ティーチング」と「コーチング」です。ティーチングが魚の取り方を教えることであるとすれば、コーチングは魚の取り方を一方的に教えるのではなく、取ることを一緒に考えて編み出させるようサポートすることです。サポートには、相手を無限の可能性を持った有益な存在として見る、肯定的な人間観があります。
 人間は一方的に教え込まれると成長に限界が出てきます。成長するためには、任せる、責任をとることが大切です。その本人が責任を持ち、できる人になるためには、あくまでも本人が主役となり、指導者はサポートすることが必要です。
 
 人は誰もが、自分を信じてくれた人の期待に応えて成長しようとします。
 2000年シドニー五輪の女子マラソン金メダリストである高橋尚子選手を指導した小出義雄監督は、繰り返し「お前は一番になれる。絶対なれる。世界一になれる」と言い続けた話は有名です。無名の高橋尚子選手を世界一にしたのは、小出監督の持つ、やる気を引き出し、才能を伸ばす「コーチングの力」ではないでしょうか。一方的に教え込むだけではなく、責任を持たせ、意欲をかきたてる言葉を投げかけました。
 このように、心から信じてくれた人に対しては、心からそうなろうと努力するものです。尊敬心を持って接してくれた人に対しては、自然に尊敬の心を持ちます。
 
 ヘルプを通した関係は上司と部下のような上下関係となります。一方、サポートは、縦の関係となったり、横の関係になったり、さまざまに変化します。しかし、自由な雰囲気と友好的な関係をつくりやすいのです。サポートは、サポートする人が主役ではなく、される人が主役であり、主体になるため、のびのびと主体的に行動していきます。
 今、時代の変化と共にコミュニケーションの形態も変化しています。私たちも学校や職場で、相手をできない人と見るのではなく、信頼感を持って、能力や可能性を最大限に発揮させるコミュニケーションを心がけていきましょう。

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