コラム

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「伝わる」コミュニケーション

幸福度がアップする家族のコミュニケーション講座
阿部美樹

 言いたいことが「伝わる」ために重要なのは、「伝えたいポイントを明確にすること」です。話に時間をかければ、相手に多く伝わるものでもありません。皆さんは、いろいろと話し過ぎて何がポイントなのか分からなくなったり、心に残らない話をしてはいないでしょうか?

 今回は家族の話から少し視点を変えて、自分の思いを正しく、分かりやすく伝えるコミュニケーションについてお話ししてみたいと思います。
 相手に思いや情報を伝えるとき、長々と話をする人がいます。ある人は30分かけて話したとします。しかし、聞いてみると要点は一つか二つくらいであり、要約すれば3分で終わる場合もあります。話に時間をかければ、相手に多く伝わるものでもありません。反対に、いろいろ話し過ぎて何がポイントなのか分からず、心に残らない話もたくさんあります。大切なのは「伝えたいポイントを明確にして語ること」です。
 
 「時は金なり」と言うように時間は「財産」です。誰にも取り戻せない貴重な資源です。財産を奪われたら「ドロボー!」と叫ぶ人はいますが、無駄な時間を過ごして時間を奪われたからといって「ドロボー!」と叫ぶ人はいません。しかし、時間も共有財産であるという意識を持つことは大切です。
 そこで、話をするときに、集約して語る感覚を身につけられれば豊かなコミュニケーションができます。「コミュニケーション論」に関する書籍を数多く出している明治大学の斎藤孝教授は、「1分間スピーチトレーニング」というものを提唱しています。テーマを決めて、それに対して1分間で要約して話をするという訓練です。
 1分というと短いと感じる人もいるでしょう。しかし、テレビに出てくるアナウンサーや司会者は、1分の中に非常に多くのことを話しています。なかには、10秒間に何文字くらい話ができるか感覚でつかんでいる人もいるそうです。だからこそ、的確な話には無駄がなく、沈黙もありません。1分間スピーチトレーニングは、言いたいことを要約して表現する訓練です。それを繰り返すことで時間内に要点をまとめる「要約力」がつきます。
 
 例えば、「感動したできごと」というテーマで1分間スピーチをするとしましょう。私が体験した内容を紹介してみます。
 
「私は小学校3年生の頃から10年以上、剣道をやっていました。365日のうちに360日以上は稽古するほどの学生生活でした。インターハイや国体も参加しました。その中で一番印象に残る試合は、高校3年の東北大会に参加した時のことです。大会2週間前に足をくじいて捻挫してしまい、ろくな練習もできず、当日になりました。当日の朝、再び同じところをくじいてしまい、『ボキッ』という音とともに激痛が走りました。しかし、個人戦出場なので、誰にも代われません。無我夢中で試合に出場していく中で、あれよ、あれよと勝っていき、東北大会3位に入賞しました。試合後、医者に行ってみると骨折していました。振り返ってみると、痛みを超え『無我夢中』で取り組むことで、考えられない力が発揮されたように感じます。逆境の中での勝利は感動の思い出です。」
 
 これを私が話したらちょうど1分でした。1分といっても、意外に多くのことを語ることができるのです。約370字ありますが、この中に高校時代の剣道の思い出が凝縮されています。
 
 しかし、短く話すためには、準備も必要です。まず、始める前に「話しておきたいキーワード」を極力多く紙に書いて考えます。次に、その中から最も重要なものを選び、「これは必ず話す」言葉を選びます。そして、最後に言い残す「決めフレーズ」をつくります。これが結論であり、話の骨格になるわけです。話のポイントは紙に書いて準備するのがよいです。頭の中で組み立てるだけでは、なかなか整理できません。
 また、1分の話をするときのポイントとして、「踏み石」をイメージして話すことが効果的であると、明治大学の斎藤教授は指摘します。話し手と聞き手の間に川が流れているとイメージし、その川を渡れば話してのメッセージを受け取ることができます。しかし、川を泳いで渡るわけにはいかないので、そこにはいくつか踏み石が必要です。それを置く作業が話すことの根本になります。
 
 そのために、まず、話の踏み石をしっかり図式化・イメージ化したほうがよいでしょう。絵を頭に思い描くように、イメージをビジュアル化して考えれば、話のイメージがつかみやすくなります。
 「踏み石」の例としては、こんなことがあり、次にこうなり、だからこうです、と時系列で説明するパターンや、最初に「本論」を示し、次に「詳細説明」をし、最後に「結論」をいうパターンもあります。先ほど紹介した私の体験は、時系列どおりに説明したものですが、先に結論を言ったほうが興味深く聞ける場合があります。例えば、「私は剣道を10年間やっていましたが、一番印象に残り、感動した試合は、高校三年のときの『けがをして参加した東北大会』です」と、結論を提示します。すると「けがをして参加したか……」と注目を集めることができます。そのあと、その時の様子を詳細に説明し、最後に結果と感想で締めくくることも効果的です。
 
 1分間でも、意外性があったり、驚きがあったり、表現次第で豊かな話になります。繰り返し訓練することで、時間間隔と話のポイントをセレクトするセンスが格段に身につきます。向上心を持って繰り返すなら、誰もが伝える能力は高まります。

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