コラム
colum人間関係にも影響を与える「呼吸」
生きる上で最も大切なことは「食べること」と考えがちですが、1日、2日何も食べなくても人は死ぬことはありません。しかし、「呼吸」はほんの短い時間だけでもしなければ生きることはできません。そういう意味で、「呼吸」は本当に大切です。今回は、呼吸という観点からコミュニケーションを考えてみたいと思います。
呼吸は「呼気」と「吸気」の繰り返しです。吐くことは吸うことを前提とし、吸うことは吐くことを前提とします。この繰り返しが生命維持の公式です。どちらにも偏ることなく、両極を行ったりきたりするリズムの運動は、あらゆる生命現象にもつながることです。
人間関係も同じように、「授けること」と「受けること」の繰り返しで成り立ちます。呼吸は「良く吐くこと」と「良く吸うこと」で成り立っているように、人間関係も「良く授け」「良く受ける」ことで愛の関係が成り立つようになっています。
武士の社会では、座禅などの瞑想によって呼吸を整え、鍛えることが精神修養になるとされていました。武士道で最も嫌がる感情は「恐れ」でした。日々の精神修養で、怖れに対する対処法を研究していたとも考えられます。武芸の稽古では、精神修養の方法として、ハラ(腹)、丹田を意識した呼吸を学ぶことが重要視されています。精神統一や心技体という言葉を聞きますが、武芸の道を究めるためには、体や技を磨くだけではなく、精神を磨かなければならず、そのためには丹田呼吸が必要とされてきたようです。
丹田呼吸を簡単に説明すると、へそから10センチほど下にある「丹田」に力を入れながら、8~15秒ほどかけて息をゆっくり吐き、吐ききったあとに自然に任せてすっと息を吸う呼吸法です。剣道や柔道、合気道など武道全般に取り入れられています。
ハラを意識した丹田呼吸は、ある意味で情報の許容量、キャパシティーを多くする作業ともいえます。人間の器が大きいということは、自分の価値観と異なるものであっても、自分の中に受け入れられるということです。呼吸法でハラを鍛えることは、人間の器を大きくすることにつながるのです。ですから、正しい呼吸法をすると、人間の器を広げ、人を受け入れるコミュニケーション力を高める結果にもなります。
嬉しい時、楽しい時、幸せな時、どのような呼吸をしていますか? 「気持ちいい~」「おいしい~」「やった~」というように、息を長く吐いて語尾が延びます。一方、悲しくて泣く時は、息を吸いながらしゃくりあげて泣きます。1回1回の短い途切れ途切れの呼吸になっているはずです。
怒っている時や、緊張してどきどきしている時も、ひと呼吸ひと呼吸が短く、吸う方が強くなっているものです。このように、呼吸と心の状態は密接につながっているので、呼吸の状態を意識的に変える「呼吸法」で、心の状態を自分でコントロールできるのです。
人間以外の動物は、自己の意識によって呼吸を変えられません。しかし、人間は横紋筋を自由に使って自己の意志で呼吸を変えることができます。人間は、呼吸によって人生を変える特権がある存在ともいえるでしょう。
呼吸を整えることで健康になり、心も安定し、心の器を大きくし、人間関係も良好になっていきます。まさに、「呼吸を変えれば、人生が変わる」ということです。
その呼吸を変えるポイントを二つ紹介します。
①呼息(吐く息)の時間を、吸う時間よりも長くする」(吐く息を強く意識した呼吸であること)
②おなかの動きを意識した呼吸(胸が上下する浅い胸式呼吸ではなく、腹式呼吸に重点が置かれた呼吸)
このような呼吸法に合致した生き方とは、どのようなものでしょうか。呼吸の「吐くこと」と「吸うこと」の繰り返しのように、人間関係は「授けること」と「受けること」の繰り返しです。健康的な呼吸が、吐くことを多くし、意識することであったように、「良く授けること」を意識した人生が健康的な生き方です。もらうこと、受けること、尽くされることで幸せになるのではなく、授けること、与えること、尽くすこと、投入することがより充実した人生になり、幸せな人生になると言えるでしょう。