大阪府 20代
白數しらすさん、駒井さん(仮名)、碓本うすもとさん(前編)

「家庭連合二世」として駅前に立つ

「私は、世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会の現役二世信者です」
 建国記念の日である2月11日、大阪市の阪急梅田駅前の交差点に面した歩道に、スピーカーから声が響いた。信号待ちの人、歩道橋を歩く人、家電量販店の入り口からのぞく人……梅田駅前は多くの人が行きかっている。中には不思議そうにこちらの様子を伺っている人もいる。声の主は白數しらす将明しょうめいさん(25歳)で、「信教の自由を守る 大阪二世の会」の代表を務める。

 この日、全国的に寒波が襲い、演説場所も体の芯まで凍みるような風が吹いていた。14時ごろ、駅前には20代を中心に家庭連合の二世の教会員が20名ほど集まった。これから街頭演説を始めようかという、何とも言えない緊張感が漂っている。警察署への歩道使用許可の申請や、道具の運搬や設営などの準備は全て自分たちで行う。スピーカーやマイク、のぼり、たすきなどは、教会から借りて持ち寄った。教会員が行う街頭活動は全国的に行われているが、二世のみでここまで準備・運営するパターンは珍しい。

「梅田駅前をご通行中の皆さん、こんにちは!私は、世界平和統一家庭連合、いわゆる旧統一教会の現役二世信者です。今日は、皆さんにお伝えしたいことがあり、立たせていただきました」
 街頭演説が始まった。一人5分~10分ほどの持ち時間で、順番に前に立って演説を行っていく。堂々と、自分のことばで家庭連合の信仰に対する熱い思いや、家族への感謝、いわゆる「宗教二世」を“被害者”であるかのようにみなす世の中の風潮への抗議など、各々の体験談も交えて率直な思いを語った。同時に、通行人には信教の自由が侵害されている日本の現状を訴えるチラシが配布された。

 今回、演説とチラシ配布を行った駒井澄花さん(仮名、24歳)は、2022年の安倍元首相の銃撃事件後、家庭連合を批判するニュースが毎日のように流れ、大きな不安を感じたという。また、同じ二世の友人の中には教会から足が遠のいた人もいた。その頃に大きな心の支えだったのが「信者の人権を守る二世の会」の小嶌希晶さんらの活動だった。
「小嶌さんは、フィリピンで1週間くらい一緒に生活したことがあって、知り合いだったんです。そんなお姉さんがある時(家庭連合の教会員として)テレビに出ていて、すごく力を与えられました」

チラシを配布する駒井さん


 実は白數さんも、小嶌さんらの「二世の会」から刺激を受けた一人だ。「二世の会」が東京で行ったシンポジウムなどの活動を見て、大阪でも二世たちで何か行動を起こしたいと思ったという。その頃に、同世代のIさんが、大阪市内でお父さんと街頭演説を行っており、二世の仲間たちと一緒に街頭活動を行いたいと考えていることを知った。Iさんの呼びかけに応えて、白數さんや駒井さんらも街頭に立つようになった。白數さんが今の思いを生き生きと語ってくれた。
「やってよかったです。二世たちが結束することで、すごく大きな力を感じますね。親世代の方々が頑張っているから、僕たちが教会の未来を引き継ぐんやという思いでやっています」

 この日参加していた碓本うすもと奈央なおさん(23歳)は、今年度から家庭連合の職員として働いている。2022年の事件後、世の中に溢れる家庭連合の情報のうち何が正しいのか、自分自身で見極める期間があった。信徒家庭が抱える様々な問題に対し、教会としての取り組みが十分ではなかった部分もあることを認識した反面、コンプライアンス面は大きく改善されてきていることも知った。
「信仰を持っている私たちがどう行動するかがすごく大事だと思いました。私は教会での学びを通して、神様から愛されている実感を持てたので、教会を担っていく責任を持つ覚悟を決めて職員になりました」
 碓本さんの夢は、地域の方々にも真の愛で接していけるような、幸せな家庭を築くことだという。

 事件以降の報道や周りの反応に不安を感じてきた駒井さんだが、一般の人にも伝わるような言葉を選んで演説をするうちに自信がついてきたという。もちろん話す内容は自分で考えている。
「初めて街頭演説を経験した後に、私の信仰をまだ話していなかった友達に、演説内容をほぼそのまま話しました。すると、友達は私の話を理解してくれました。私の両親は国際カップルなので、家族になれば国の壁を超えられると実感しているのですが、そのことを伝えたら『なるほど、そういう考え方があるんだ、いいね!』と感動しながら聞いてくれました」

 彼らが演説していても、立ち止まって最後まで聞いてくれる人は稀だ。しかし、白數さんたちは立ち続ける。20代30代の若い世代が街頭で訴えている、というだけでも関心を持ってくれる人はいる。そんな手ごたえを感じているという。
 1時間半ほどの演説が終わった。お互いをねぎらいあう彼らの顔は、寒さを感じさせないほどの充実感に満ちていた。

後編に続く

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